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zoom RSS 『メイフェア族』(1999)第1話・軍産に群がる人でなし達に関するドキュメンタリー

<<   作成日時 : 2019/05/13 21:17   >>

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 『メイフェア族:財界勃興と政治権力衰退の物語』(The Mayfair Set: Four stories about the rise of business and the decline of political power)は戦後、新興投資家の急速な成長にともなって、英国の政界が金融勢力の配下に組み込まれていった過程を描いた4話完結のドキュメンタリー。1999年にBBCで制作・放映されたもので、監督はアダム・カーティス(Adam Curtis)。今回はそのなかから第1話を取りあげる。タイトルになっているメイフェア族(Mayfair Set)とは、元々ロンドンの高級住宅街に集まっていたギャンブラーたちのことで、株を操って大資本に成長し、世界の富をほしいままにしていった人々のことを指す。

 第1話、『金を出す奴が勝つ』の主役は、第二次世界大戦終結とともに覇権を失った英国に栄光を取り戻そうとした武器商人、デビッド・スターリング大佐(David Stirling、1915-1990)である。スターリングは戦後、英国の兵器を湾岸諸国やアフリカ諸国に売りさばき、その代償に外貨を獲得して英国の相対的地位を向上させる、という祖国繁栄の新しい構図をつくりあげた。

  デビッド・スターリングはスコットランドの旧家出身で、SAS(陸軍特殊空挺部隊)の創設者であり、第二次世界大戦中の北アフリカにおいて輝かしい戦果をあげた砂漠戦の英雄だった。戦後はローデシアに滞在し、アフリカ諸国における白人支配層の権益を守るべく、民間軍事請負企業(ワッチガード Watchiguard International Ltd.)を設立する。だがその時代遅れのやり口がロンドンの国会議員たちに疎まれ、彼の計画は拒絶された。直接統治の時代は終わったのだ。しかたなく帰国したスターリングは、メイフェア地区で貴族が経営する豪華な賭博場、クレアモント・クラブに入りびたる。そこにはジェームズ・ゴールドスミスやタイニー・ローランドもいてさっそく意気投合。彼らは大英帝国の再興を夢見、それを実現することが自分たち愛国者の義務であると考えた。そして彼らは、それまでとは全くちがった新しい方法を生みだした。

 1962年、エジプト軍がイエメンに侵攻する。ナセルの背後にはソビエト連邦がおり、次はサウジアラビアの油田が狙われるかもしれないという状況のなか、スターリングを含む英国の右派は、「事態を放置すると英国の経済が滞ってしまう。ナセルを食い止めなくてはならない」と主張。スターリングは外相と差しで食事をし、元SASの兵士を秘密裡にエジプトに送る作戦を提案する。これに同意したサウジアラビアのファイザル王子が戦費を負担し、武器を密かにイエメンに運び込む役割も引き受けた。サウジアラビアの武器商人であるアドナン・カショギが、大戦終結で米国や英国に大量に余っていたマシンガンを調達し、スターリングは元SASの兵士にアラブ軍の訓練を担当させた。つまり表向きは英国政府が関与していない格好で、作戦は進行した。元SAS指揮官は述懐する、「すごく興奮したよ。だって歴史を変えたように思えたからね。よい国をひとつ創ったんだと。ひどい思い上がりだったがね」。こうして英国に新しい外交政策が誕生した。《よその国に支払わせる》というプログラムだ。

  ところがスターリングが勝利に喜んだのも束の間、英国を経済危機が襲う。時は海外資本や新しい金融業者の投資行動が、国の経済を左右する時代に移行し始めていた。労働党政権はポンドを守るため、広範囲にわたる支出削減をはかる。目玉は軍事費削減で、海外基地を撤退したりするのだが、事態はなかなか好転しなかった。そこでヒーリー(Denis Healey)国防相は、軍需産業で米国に対抗しながら外貨を招き入れるという方法を考え出した。再びスターリングの出番である。

 スターリングは国防省の支援を受けながら、英国のあらゆる最新兵器をサウジアラビアに売却した。カショギが言うには、「サウジアラビアで商売を成功させるには賄賂あるのみ」だそうで、実際、ロッキードはそうやって売買を成立させていた。ならばとスターリングも、同じことをやった。サウジ空軍に英国製戦闘機を売り込んだ政府肝いりの航空会社、BACの有力者であるカルデコート卿が当時を「倫理基準の異なる国と商売をやったんだからね」、と当然のことのごとく述懐しているが、もし英政府がコミッションの支払いを認めていたのなら、それは贈収賄に該当するはずだ。だがスターリングは、これを英国のために必要な正しい行為だと信じて疑わなかった。英国とサウジアラビアの腐敗した取引慣行は続き、病院や設備建設などの大型副産物をともなって、数10億ポンドという規模に発展する。兵器輸出は英国の主要産業に成長したのだ。

 60年代も終わるころ、元植民地だった諸国では次々と市民戦争がおこっていた。たとえばナイジェリアでは、英政府は秘密裡に武器援助をして政権側を支えたが、資源に関する利権がからんでいたことが暴露されている。アフリカ大陸や中東で起こる紛争に対して、スターリングは自身が設立した民間軍事請負会社、”ワッチガード”を使って介入し、既得権益と癒着し、それを守ることに徹した。こうしてスターリングは「第3世界の権力を守護する民営型外交」、という現代における英国式外交の原型を造りだしたのだ。

 第1話にはこの他に、スターリングが労働運動を内部から密かに操ろうとしていたエピソードが出てくる。74年の大規模な炭鉱労働者ストライキの後、労働党内閣が誕生して左派労働運動が高揚していることに危機感をいだいたスターリングは、メイフェアの仲間から元SASの軍人やスパイ、武器商人らをさそってGB75(Greater Britain 1975)という組織をつくった。これはもし労働組合の政治ストによって政府が機能しなくなったときは、GB75が英国をその管理下に置くというもので、いわばクーデターの準備組織的な性格をもつものだったが、平和主義者の新聞にすっぱ抜かれて計画倒れになっている。また、公務員労組の代表で右翼労働運動家として力を持っていたケイト・ロジンスカ(Kate Losinska)は、スターリングを賞賛し、労働運動の中に自分たちの組織を作って、共産主義者を排除するのだと主張してはばかることがなかった。

 デビッド・スターリングは引退後も、故郷スコットランドの生家に住むことはなかった。家族が莫大な借金を抱えたため、家屋敷をアラブのビジネスマンに売却してしまっていたからだ。

 次回は『メイフェア族』の第2話、英国で最初に敵対的買収を行った男についての話を紹介しようと思っている。

 アダム・カーティス監督の作品は、見ごたえのあるものが多いのだが、DVDはなかなか入手しにくい。今回紹介した『The Mayfair Set』もすでに品切れで入手不可能なようである。だが彼の作品には熱狂的なファンも多く、幸いユーチューブの以下のサイトにTV放映からキャプチャしたものであろう、載せてくれている方がいる。画像はあまり良くなく、最後10分ほどが切れているが、ご覧になれる。(英語カラー、字幕無し)
https://youtu.be/tuqYbohCLFM





 

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