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zoom RSS アラン・ショアの死刑廃止論『ボストン・リーガル』(その3、連邦最高裁判所)

<<   作成日時 : 2018/10/21 13:47   >>

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  前回に引き続き、『ボストン・リーガル』でアラン・ショアが死刑廃止論を披露した3回目のエピソードを取り上げる(シーズンW第17話)。ある日、アランの上司が「君に新しい依頼だ」と声をかけてくる。「8歳の継娘をレイプした事件だ」と説明されて、「それは断る」と即座に答えるアランだったが、上司は「連邦最高裁にかかっている死刑事案なんだ」という。このやり取りから米国の視聴者は、『ケネディ対ルイジアナ州事件』を番組で取り上げるのだなと理解する。1998年に起こった事件で、当時8歳だった継娘を非常に残虐なやり方でレイプしたとして、被告のパトリック・オニール・ケネディは否認したまま死刑判決を受けた。2008年、連邦最高裁での上告審では、少女へのレイプが被害者を死に至らしめなかった場合でも極刑に相当するかどうか、という点が争われ、同年6月、「合衆国憲法修正第8条(残酷で異常な刑罰の禁止)は、児童に対するレイプ事件で実行犯に殺意がなくかつ被害児童が死亡しなかった場合には、死刑を科すことを認めていない」、という判断が下された。

 事件の詳細は以下のサイト(英文)にあるので、興味のある方は読んでいただきたい。冤罪が疑われる死刑事件の事実関係は、注意深く吟味しないと、メディアの扇動などでだまされてしまうのでむずかしいところだ。だが、被害者である継娘が事件直後から警察に「父親にやられた」と供述するよう強要されていたこと、現場から逃走した他の男がいること、そして被告パトリック・オニール・ケネディはアフリカン・アメリカンで、知的障害があるが犯罪歴はなかったことなど、冤罪事件の可能性が大きい。

https://www.law.cornell.edu/supct/html/07-343.ZO.html

 死刑をまぬがれた有名事件をドラマ化するのだから、法廷でのやりとりを忠実に再現するのか、と言えば決してそうではない。実はこのドラマ、上告審進行中の2008年4月に初放映されており、まだ判決は出ていなかった。そんな時期に、有能だが破天荒なアランというまったく架空の弁護士を使って、死刑廃止論を全面展開するのみならず、最高裁判事の腐敗・堕落を徹底批判する番組をオンエアしたのだ。製作者の度胸には驚かされる。さらに、このエピソードの面白さは、司法の頂点に君臨する判事たちの政治家や財界との癒着に言及し、裁判所の怠慢をなじりまくったアランの大演説にある。シナリオの勝利である。ドラマだからこそできる展開とはいえ、「司法に問題があるのは日本だけではないんだなあ」などと思わせるところもあって、なかなか味わい深い。

 なので今回は、アラン・ショアの最高裁弁論にしぼって紹介する。非常に長い場面なので、途中ところどころ割愛した。なお、被告の名前は、ドラマではレオナード・セラに変更されている。

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アラン:現在、この国では3300人の人間が死刑案件で争っています。そのなかで私の依頼人は、殺人でない2つの事件のなかの一人です。1995年にルイジアナ州法(注:12歳未満の子どもへのレイプに死刑を認めた)が施行されて以来、180人が児童へのレイプで起訴されていて、レオナード・セラはその一人です。

判事:ルイジアナ州法では児童へのレイプに死刑を適用できるのですよ。

アラン:そしてその法が違憲であると、私は謹んで申し上げたい。この法廷におけるコーカー事件(注:成人女性への死に至らないレイプには死刑は適用されないという判決)で死刑は・・・

判事:その事件は大人に対するレイプ事件で子どもではない。判決を読み返してください。それに、もし私があなたの言い分を認めたとしても、国民のコンセンサスは「死に至らしめないレイプでも死刑」ですよ。

アラン:ルイジアナ州は野蛮な法を成立させてサウジ・アラビアやウガンダや中国の仲間入りしちゃって・・・

判事:この国の他の州もです。

アラン:たった5州です。それではコンセンサスとはとうてい言いがたい。それに他の州では初犯に死刑は適用されません。加えて申し上げますが、あなたが国民のコンセンサスを得ているというルイジアナ州法は、選挙を前にした政治家たちが票ほしさに、犯罪に厳しい法をがむしゃらにアピールして通過させたものです。いっぽうで、子どもたちの福祉を最も考えている人々、医師やソーシャルワーカーなど、実際に虐待を受けた子どもたちをケアしている人たちが、廃案にするよう法廷に書類を提出しています。なぜなら、彼らは死刑が子供たちをまったく守ってくれないことを知っているからです。むしろ、虐待した者が家族の一員であった場合、子どもたちはますます口を閉ざしてしまうでしょう。どんな子だって、身内の処刑に責任をもちたくはありません。そして子どもたちは判断をまちがったりもする。子どもは誘導や威圧の影響を受けやすいものです。

アラン:もちろん警察には罪はないことでしょうよ。でもね、年間15,000件なんて、この国は誤審の大流行じゃないですか。そして多くが死刑論争になる。子どものレイプ事件は特に告発があてにならないのに、それをミスを犯しても取り返しがつかない死刑案件に加えたいんですか? 死刑について個人の感情がどうであれ、賛成であれ、私たちはたびたび判断をしくじるんだという事実は無視できないじゃありませんか。無実の人を有罪にしたり、処刑したりする恐れがあるから、多くの国が「死刑停止」を宣言しているのです。それが真の国民的コンセンサスというものだ。なのにルイジアナ州は、殺人ではない事件にまで死刑を拡大しようとしています。そしてここが最もすごいところなんですが、知的障がい者を殺そうとしている!我々は正気か?

判事:被告は一度も公的に障がいがあると述べたことはない。

アラン:しかし、彼は障がい者です、判事殿。彼のIQは70です。知的障がいがあると自ら主張しなかったから、彼は殺されるんですか?

判事:記録からそれてしまってますが、あなたが記録を修正することはできません。

アラン:あなたは単に有罪判決を指して記録といいますが、資料全体をとおして読めば、彼が常に無実を主張してきたことを示していますよ。彼に前科はなく、被害者も彼の犯行を認めたのはやっと20ヶ月後だ。DNAもない。

判事:被告が実際に無実かどうかは、あなたが議論しなくてはならないことではありませんよ。

アラン:そりゃないだろう! 人を殺すか否かというときに、その人が無実かどうかはどうでもいいだって?

判事:ショアさん、あなたの態度や口調が気に入りませんな。場所をわきまえたまえ。

アラン:私がどこにおりますかは、正に承知しております、裁判長殿。合衆国の最高裁判所です。あんたたちにちょっと言わせてもらいますとね、あなたがたあまり優秀じゃないですね。みなさんの指名承認を考えてみましょうか。みんな宣誓しましたよね、中絶の規制については考えたことがないって。冗談でしょう。全然考えたことないって? 偽証してないですか? スカリア判事さん、あなたチェイニー副大統領がこの法廷の被告だった時、いっしょにカモ狩りに出かけましたね。撃たれなかったことにお祝い申し上げます。あなたは、差しさわりのあることの露見も気にしないんだから。アリトー判事、あなたはご自分が何十万ドルも投資した会社の関連する訴訟事件を、審理したんでしたねえ。ふむ、利益相反はありませんでした? それから、テロ事件も忌避しないんですね、国土安全保障長官マイケル・チャートフのお友だちなのに。最高裁はとっても厳格なスタッフ構成なんですねえ。ボク、正しいかしら?(中略)

アラン:あなたがあなたの「狭い多数派」を従えて裁判長を務める短い間に、この法廷は市民権や学校における人種隔離政策、平等保障、表現の自由、中絶、そして選挙資金などで時計の針を過去に逆回転させてしまいました。あなたは恥知らずにも、あからさまに企業寄りだ。企業、特にオイルやタバコといった大企業を訴えることを不可能にしてきた。(中略)あなた方はこの法廷を市民の権利と自由のために奉仕する政府の機関から、差別者を保護するためのものに変えてしまった。(中略)

アラン:私はこれまでに処刑を5回みてきました。死刑は、正義を約束するはずのシステムの中で、もっとも非人道的で残酷な、常軌を逸した偽善だ。(中略)最高裁は政治から自由で純粋であるべきです。それが今や、イデオロギーに基づいて計画をたてる大統領たちの手玉にとられている。あなたの在籍中、2006年から2007年までに出された24回の5対4決定のうち、19回にイデオロギー的偏向がありました。あれは政治です。(中略)

判事:あなたはしゃべりすぎだ。残りの時間をご自分の左翼的アジェンダではなく、本件依頼人のために使いなさい。

アラン:はい・・・。私は実際、ここに立って、子どものレイプ犯を擁護することなど断じてできません。もしそれが私の子どもだったら、そのケダモノをこの裁判所の前で射殺したいでしょう。だが、あらゆる事情を勘案すれば、もう少し前向きな結論を導き出せます。レオナード・セラは果たして人類最悪の極悪人を体現しているでしょうか? 私はアドバイザーから、「レオナード個人については論じないように」、と釘をさされました。だがあえて言います。彼はどんな意味においても極悪ではない。彼はケダモノではありません。情緒面でも知能の面でも、彼は子どもです。こんな人間が、死刑の見本なんですか? ルイジアナ州法制定以降、子どもへのレイプ事件で起訴された州の全被告人のうち、死刑を宣告されたのはレオナードだけなんです。あなた方のなかにこれが正当だといえる人がいますか? 彼はIQ70なんですよ? レオナード・セラは黒人です。そしてルイジアナでは歴史的に、非殺人事件で処刑されてきたのは黒人です。過去100年の間に、殺人ではないレイプ事件で29人を処刑しています。すべて黒人です。この建物(連邦最高裁)の前面に書いてある、「法律上の公正」と。お願いですからあれを引受けてください。(中略)建物の後ろにはみごとな彫刻があって、その一部は「慈悲による正義」という概念を象徴しています。もし慈悲がこの建物のなかに、そして正義を司るあなたがたの心のなかに本当に生きているならば、犯人ではない可能性が非常に高いこの男を、注射器で殺すことなんかできないはずだ。私は彼からこう伝えてくれと頼まれました。「私はやっていない。大事なことだから知ってほしい」。彼はまた、このことも伝えてほしいと言いました。「私は死にたくない」。



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