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zoom RSS アラン・ショアの死刑廃止論『ボストン・リーガル』(2004-2008米国TVドラマ)

<<   作成日時 : 2018/09/16 22:41   >>

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 前回、背景音楽に批判的なことを書いたので、今回は優れた背景音楽のおかげで出会ったドラマについて書いておく。米国のTVドラマ、『ボストン・リーガル』(“Boston Legal”、2004-2008年、脚本デビッド・E・ケリー)だ。筆者はこのシリーズをまったく知らなかったのだが、偶然耳にした斬新なテーマ音楽が気になり、当時滞在していたドイツの大型電器店で平積みになっているDVDをディスカウントで購入した。出演者は総じてかなりいかれているという、コメディ仕立ての法廷ドラマである。高級スーツに身をつつんだ弁護士たちが、みっともない失態をさらけ出し、おふざけを乱発する。それでいて米国社会の問題点や法廷の矛盾、残酷な常識などに鋭く切り込んでいくプロットが同時進行する話の展開は実に見事だった。あまりに面白いのでシリーズDVDを次々と購入し、おなかの皮がよじれるほど笑わせてもらった。役者陣が何度もエミー賞を取っている古典に分類できるシリーズだが、日本で放映されたかどうかは知らない。

 さて、この『ボストン・リーガル』は、死刑廃止論の紹介に貢献したことでも知られる。おふざけな作風からは想像しにくいドラマの意外な側面でもあるが、ジェイムズ・スペイダー演ずる主役のアラン・ショアは強烈な死刑廃止論者なのだ。私の記憶では死刑をあつかったエピソードは3回存在し、なかでも2005年に放映された”Death Be Not Proud”(シーズン1の17、2005年3月放映)はビーボディ賞を受賞している。プロットはこうだ。

 ボストンの高級弁護士事務所に勤めるアラン・ショアのところに、テキサスから若い女性弁護士、シェリーナが訪ねてくる。冤罪の疑いが濃厚な青年、ジーク・ボーンズの死刑が確定しそうだというのだ。(注1)事件当時、殺害現場から検出されたDNAは別人のものだと判別したが、ジークは逮捕後の16時間におよぶ取調べですでに自白をしてしまっていた。シェリーナはジークがIQ80であることから、利益誘導や脅しによって虚偽の自白をしたおそれがあること、そしてアフリカン・アメリカンであることが不利にはたらいていることなどをアランに訴える。即座に弁護を引き受けたアランはテキサスに向かう。


(注1)アメリカ合衆国で死刑が存続する州(赤)と廃止されている州(緑)
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 道すがらシェリーナが説明する実態はこうだ。テキサスの法廷では、死刑制度の非人道性はまったく問題にされない。なぜなら判事たちは皆、死刑肯定論者だからだ。そして、テキサス州には最高裁がない。あるのは地裁と民事、刑事それぞれの高裁だけである。このことが死刑事例の裁判をスピードアップし、最高裁がある州の倍の速さで処刑することを可能にしている。だからテキサスは合衆国のなかでも処刑率が高い。今回のジーク事件でも、高裁判事9名のうち7名が検察官あがりであり、そのなかにアフリカン・アメリカンは一人もいない。肝心のジーク本人は、自分はもう助からないと思い込んでおり、「どうせ死ぬのだから神様のもとに行きたい。ヤクや盗みはやったけれど、最後は勇気をもって死にたい」という境地に達してしまっていた。

 ちなみにこのシリーズでは、他の裁判も同時進行するのが定番である。今回はキャンデス・バーゲン扮するシュミット弁護士のもとを上品な初老の婦人が訪ねてくる。100回も繰り返して男を買ったことで訴えられたのだ。シュミットは彼女の行為をニンフォマニアという病気の所為で責任は問われないと主張するが、シュミットの同僚で元凄腕弁護士のクレインは、被告と同じく初老の担当判事が童貞であることに注目し、ひそかに作戦をたてる。まあ、このシリーズにありそうなプロットだ。重たい冤罪死刑の話で視聴者を疲れさせないために、ちょっと笑える事例でバランスをとっているのだろう。

 さて、ジークのために法廷に立ったアランは、判事たちから冷たい態度であしらわれる。「死刑に反対しているからよその州から来たのか?」、という問いにアランは答える。「この国において、これまでに117人の死刑囚が誤審から救済されています。システムがどうしようもなく不正確なんです。そしてテキサス州での処刑は国全体の3分の1を占め、昨年だけでも国の50%の処刑がなされました。テキサスは何かおかしい。(中略)ジークは犯行の記憶がない。DNAは他の人を指している。IQは80だ。彼の有罪を確信できないじゃないですか。それでどうして彼を処刑できるんだ!」

 熱弁もむなしく、控訴は棄却される。日本とちがって、テキサスでは即刻処刑されるらしく、ジークはすぐに処刑装置のある刑務所に移送される。「処刑に立ち会ってくれるね。身寄りがないんだ」とジークに頼まれたシェリーナはアランといっしょに処刑に立ち会う。最後の面会で「勇敢に英雄のように死にたい」というジークにアランは諭す。「テキサスの人びとは君を怪物だと思いたがっている。君が本当に勇気を見せるなら、恐怖を見せることだ。怪物ではなく、人間らしい恐怖を見せることだ。人々は、処刑は苦しくないと思いこまされている。君は最期まで戦うべきだ、そして自分の恐怖を見せろ」。ジークの「だからあなたは死刑に反対なんですね?」という問いに、アランはさらに答える。「死刑に賛成であろうが反対であろうが、その現実はどんなものかを人は知る必要があるんだ」。アランたちの見守る中、ジークの処刑が行なわれる。


 さて、死刑制度にまつわるエピソードは後2回あるが、長くなるので近いうちに続編を書くことにする。ひとつは死刑廃止論者であるために弁護士資格を失いそうになった不器用な弁護士の話。もうひとつはアラン・ショアが最高裁で死刑囚を弁護する話である。



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