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zoom RSS 『ナチス:歴史からの警告』1997年BBCドキュメンタリー

<<   作成日時 : 2016/07/07 01:33   >>

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 ドイツでヒトラーがのし上がってゆく過程を振り返り、当時のドイツ民衆がどのように考え、行動したかをくわしをく検証するBBCの歴史ドキュメンタリー6回シリーズ。今回は、「ワイマール共和国がなぜ独裁者を生み出し、民衆はなぜ支持したのか」という疑問に答える最初の2回について紹介する。当時ナチ党員だった人々に取材し、貴重な証言を掘り起こしたこのシリーズは、英国映画協会(BFI)の『テレビ番組100選』の93位に選ばれ、DVDも発売されている。原題は『The Nazis:A Warning From History』(1997)。

【第一話:権力へ】

 ドイツ南東部に位置するバイエルン・レーテ共和国で1919年、ヒトラーは反ユダヤ人主義を唱えるドイツ労働者党(ナチスの前身)に加入する。彼の党員登録番号は555だったが、それは55番目の党員を意味したそうだ。なぜかというと全員の番号の頭に5を足していたからで、最初からいかさま団体だったわけだ。ここでヒトラーは「ユダヤ人からの市民権剥奪と追放」を公然と主張し、抜きん出た演説の才能で頭角を現す。以前に翻訳したルーツ・ベッカーマン監督のドキュメンタリー、『戦争の彼方』でインタビューに応じたユダヤ人の老人が、「(ユダヤ人絶滅作戦について人々が)知らなかったなんておかしいよ。ヒトラーは1939年1月30日に公言してたんだから」と述べる場面があるが、実際にはそれより20年も前に、すでにミュンヘンでホロコーストへの布石が打たれていたことになる。

 だが、今回のドキュメンタリーに登場する元ナチ党員の老人たちは、そんなことに悪びれる様子もない。BBCインタビュアーがカメラの後ろから思わず声を荒げて問いかけるシーンがある。「...しかし普通の罪もない市民の任意のグループから市民生活を奪おうというのは、モラル面で実に不快じゃないですか」。老人の答えは「ふむ、無実の人だったらね。だけど世界中のユダヤ人が権力を欲し、世界を支配しようとしていたんだ」。まさに妄想だが、ナチスや当時の実業家たちが好んで使ったプロパガンダで、民衆はこれに踊らされた。当時、バイエルン・レーテ共和国の評議会議員はユダヤ人でほぼ占められていた。こうした背景のもと、第一次大戦後の不況やハイパーインフレによる飢餓状態に苦しむ民衆は、ユダヤ人を絶好のターゲットとして怒りを向けていく。

 ヒトラー・ユーゲントの原型もすでにあった。若者をワンダーフォーゲルに参加させたのだ。「古き質素な暮らしに戻ろう」をスローガンにキャンプファイヤーをやり、テントの回りで共に歌い、そして復古的な生活への回帰を呼びかける。「ドイツが第一」、「ドイツは目覚めよ」などという極右には欠かせないスローガンをさかんに唱え、さらに暗い暴力的な面にもヒトラーは理論的根拠を与えた。「ダーヴィニズムによる社会秩序では強者の意志が貫かれるのが自然法である」として、社会的弱者から暴力的に略奪する事を正当化したのだ。これは資本の意にかなっていたから、実業家たちは「共産主義者=ユダヤ人」よりはナチスのほうがまだましだ、というふうに考え始めた。実にあさましい。

 だからミュンヘン一揆に失敗した時も裁判官は彼に好意的で、判決は禁固9ヶ月、獄中の待遇も良好だったようだ。出所後のヒトラーは選挙による合法的な権力掌握を目指すようになるが、その演説の中では独裁者の必要性を臆面もなく主張している。そして1932年にはナチスが最大政党になる。ヒトラーへの首相任命を嫌がるヒンデンブルグだったが、実業家団体からの圧力に屈服して承認。社会民主党のほうは、まだヒトラーをコントロールできると思っていたようだが、読みが甘すぎた。1933年の全権委任法でナチス以外の党は解体され、新党結成も禁止される。

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【第二話:暗黙の了解】

 共産主義者や社会主義者は収容所に送られた。最初に逮捕された議員は社会民主党のヨゼフ・フェルダー。留置場で「首をくくれ」と縄を見せられるが拒否。その後、ダッハウの強制収容所に送られた。生還した本人がインタヴューに応じ、当時を述懐している。

 歴史学者のイアン・カーショウ(Ian Kershaw)によると、ヒトラーは具体的な政策やその詳細にはまったく興味がなかった。ただ、理想とするドイツ像があっただけだ。「私はドイツを上から下まで変革したい。ウソもごまかしも無しだ」、などと演説している。彼が最優先した政策は軍備拡張で、これは実業家を喜ばせた。失業を無くすと提言し、これもアウトバーンの建設などで実現して見せた。インタビューに応じた婦人が当時を回想して言う。「なぜヒトラーについて行ったか、ですって? すべてが少しずつ良くなってたからよ。個人の世帯を見る限りではね。今日より安全だったし。でも、もちろんリスクはあったわね」。なんとも薄ら寒い物の見方である。だが、これらの政策はは短期的な解決にしかならず、やがてインフレが起こる。

 焚書や水晶の夜事件などあげれば枚挙にいとまがないが、ドイツ人の多くはユダヤ人が弁護士や劇場の指揮者など地位の高い職を独占していると思い込み、破壊を楽しんだ。民衆のユダヤ人の地位に対する思い込みややっかみに、ナチスのプロパガンダが火をつけたわけだ。だが実際にはユダヤ人は100年もの間、他の職業を禁じられてきた結果、弁護士などの職業に集中せざるをえなかったという事実にナチスは触れようとしなかった。

 『ヒトラーを支持したドイツ国民』(Backing Hitler: Consent and Coercion in Nazi Germany : Oxford University Press, 2002)の著作で有名な歴史学者、ロバート・ジェラテリーもインタビューに応じ、重要な論点を紹介している。バイエルン北部に位置する都市、ヴュルツブルクにゲシュタポの記録が残っていた。当時100万人近くいた住民に対して、ゲシュタポの人数はわずか28人。ジェラテリーは、この割合では一般人の協力なしにゲシュタポは情報を得られない、と推測する。そして実際、記録によると情報の80−90%は一般市民からのものなのだ。たとえばユダヤ人との付き合いを止めなかったある女性は地域住民や隣人の申告で証拠もないまま逮捕され、最後は収容所で死亡している。番組が隣人を探し出してインタビューしているが、「確かに私の署名だけど、覚えてないわ」、と悪びれる様子もない。

 ジェラテリーは言う。「以前は住民が”上から洗脳された”と思っていた。ところがヴュルツブルクにあるゲシュタポの記録を見るかぎり、システムは”下から操作され”ていたんだ。多くの人々のあらゆる理由でね。今、私たちはシステムがどう機能したかについて驚くほど違った光景を見ている」。

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 番組には多くの名もなきドイツ人が登場するが、その立場と経験によって、過去の評価がまったく異なることには考えさせられる。日本とちがい、過去についての反省と教育が繰り返し行なわれているドイツなのにである。第2話の最後のインタビューでは、知的障害があったためナチスに殺害された少年の姉が登場し、皆に愛されていた少年が命を絶たれた悲しい過去を静かに語る。

 全部で6話あるシリーズで、なかなか見ごたえがある。日本語版は私の知るかぎりでは出ていないようだが、英語版(ドイツ語部分には英語字幕付)のDVDセットなら入手できる。なお、日本のテレビで過去に放映されたかどうかは確認していない。



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ヒトラーを支持したドイツ国民
みすず書房
ロバート・ジェラテリー

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